それさへあれば/積 緋露雪00
ではない筈だ。
既に此の世における慾を抱くことからは
遠ざかって久しいが、
慾なき人間は生くるに値しないなんて馬鹿馬鹿しいことは
一言だに言ふこと勿れ。
ギラギラしてゐる人間が素敵だなんてちっとも思へず
とはいへ、ギラギラしてゐる人間が時に羨ましくもある事もなくはないが、
然し乍ら、それは視野狭窄の謂でしかないと
ギラギラしてゐる人間を見る度に思ふ。
光害により一昔前よりも星が見えなくなった今、
それでも夜空を見上げて
思考は光よりも速く宇宙の果てに辿り着き
そこで独り寂寞の中、
呆然とするのみのおれは、
もしかするとこの寂寞を探してゐたのかもしれぬと思ふのである。
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