幸福論/英田
ンデーションをスポンジにとりそっと内から外側に広げ叩き、額、鼻筋、口の周り、目の周りを重点てきに仕上げ、最後に唇紅をさす。腕時計を外し、エナメルグリーンのヒールを履いて、玄関の扉をそっとしめ、よい子達におやすみをいうシンデレラ。ここまでが私の恋の準備。
時計は9時をまわり夜に虫の音が響く。玄関先の敷石をヒールでそっと叩き虫の音をわる。郵便受けに鍵を入れて、亡くなってしまった両親の母方の叔母が明朝に家に入れるようにしとく。家の門を出たとたん、わたしはヒールでエイトビートを刻む。そんな躍るような心持ち。
胸を打つ音とヒールがコンクリートを打つ音がわたしをわたしでなくしてしまう。そんな気がして少しお
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