幸福論/英田
 
にも応えないわたしの唇を奪う。唇をかさねあわせていると彼の携帯が鳴る。彼は私を抱きとめたまま通話をはじめる。わたしの後頭部からうなじで話される三度目の別れ話、わたしは三回彼の首筋を甘く噛む。
 あさ、肌がシーツの冷たさに目覚めて覚えるせつなさ。着替えをすませベットに寝ている恋人の瞼にそっとキスをしてはじめる別れ話。羽ばたくようにして開く彼の瞳がわたしを見すえる。3年間ものあいだこの人の射るような視線をほしいままにしてきた。そして今日わたしはその視線からそれて彼と別れる。
 彼のはばたくようなまばたきが閉じられたのはわたしが弟妹の話を始めた時だった。荷物を膝に乗せてベットに腰かけた私は断言する。
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