幸福論/英田
〇時半手前に恋人がベンチ前のロータリーにバイクを止めてこちらに手をふる。彼はわたしが近づくとヘルメットを手渡します。挨拶を交わさず彼の背中からお腹に手を回しぴったりと抱きつくただいま。恋人がギュッとハンドルを握ってエンジンをふかすおかえり。挨拶がすむとわたしたちは夜のきらびやかな光のなかへと駆けていきます。クリーム色の車体が外灯に照らされて光り、わたしたちは一つの反射光となって夜の光のなかに入っていきます。
一つ目の停車信号に照らされた時に私は右耳からイヤホンを外すと彼の右耳にそっと近づけます。彼はイヤホンを手渡されると右耳に突っ込む。彼の背中に左耳をピッとつけて抱きしめる。境界線みたいな体が
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