のらねこ物語 其の二十七「朧月」/リリー
「梅もさ、もう終わりよね。…。」
裏庭で物干し竿から洗濯物を取り込みながら
隣の表長屋の庭を眺める おゆう
居室の畳の拭き上げを済ませたおりんが
雑巾を干す手を休め
梅の木を見ると まだ咲いている白い花の
蜜を吸っては枝から落とすメジロが一羽
その晩 湯屋から帰った二人が勝手口の扉を開けると
厨の入り口の側で おきぬがしゃがみ
猫に残飯をやっている
数日前、おりんの後を付いて来た
あの茶トラであった
「また…来るかもしれないと思ってね。この子の皿も
用意しといたんだよ。そしたらさ、来たんだよ。」
おきぬの ほころぶ口元
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