日記、メモ/由比良 倖
 
にして耳を澄まさなければ感じ取れない、そのぎりぎりのところに、一番心に近い音があると思う。自己主張の音ではなく、心の震えのような音。そっと拾い上げなければ他の音に紛れて消えてしまう、心そのもののように不安定で不定形な音。その音は、詩の言葉みたいにとても儚いけれど、それ故にこそ、きちんと正確な場所を与えられたときには、とても強い力を持つ。
 青葉市子は、そんな音たちをひとつひとつ拾い上げては、あるべき場所にそっと流しているようだと思った。彼女の音楽の世界観は広々としているのに、隅々までひとつの色合いや心の流れで統一されていて、同時に、まるで僕自身の心を語ってくれているみたいな、個人的な種類の親しみ
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