のらねこ物語 其の十一「男はつらいよ」(三)/リリー
「何だ、これは。」
トラの左肩を掴むハチの目にチラッと
ずれた小袖の襟元から 見えた刺青
肩から ずりッと引き下げて
「桜吹雪の刺青とは洒落てるじゃないか。やっぱり遊び人か。」
「ちがうわ!彼は硬派よ。」
「そうさ。ハチさん、俺たちの愛はいつだってプラトニック
なんだぜ!」
「そうかい。百歩譲って、それは分かったことにしようじゃないか。」
そして ハチは落ち着いた口調で話し始める
雑穀問屋の主人は、遠縁に当たる日本橋小舟町の米問屋に
利息含め四百両という借金があった。
この不景気で経営は陥り、返済を迫られた主人は
期
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