青空とレモネード?/朧月夜
つりとつけ加えた。
「わたしにはなかったな……」
「なら」と、僕は言う。「彼女は自分を取り戻せるんじゃないですか? 自分が何者なのか、自分の周りにいるのが誰なのか、自分が何をしている人間なのか」
「彼女が自分自身のことを思い出すのは、絵筆を持つ時だけよ」
芸術家だけが持つ鋭さで、今度は彼女は言った。
「でも、今の彼女には絵筆がない……」
*1つのティーカップ5
その時の僕に思いつけたのは、君にレモンを贈る、ということだけだった。徹夜明けの日には、毎日君のいる病院に通った。最初は絵筆と絵の具を持って行ったのだが、「うちではそういうのは
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