音楽と精霊たち?/朧月夜
 
までのように収入や待遇の良い仕事は見つけられないだろう。あるいは、自分も路頭に迷うかもしれない。リスクは承知していた。

 ただ、実家に残された部屋にはどうしても帰らなくてはいけないような気がしていた。両親が生きていた間、葉子は親孝行らしいことは何もしてあげられなかった。「今ではもう遅い」――そう思う。

 父の死の報せをしてきたのも、母の死の報せをしてきたのも、葉子の弟だった。弟は弟で実家に近い場所で自立して生活を送っていた。当然家庭も持っていたし、息子と娘が一人ずついた。実家との間は時折行き来していたらしい。葉子は、実家のことも弟のことも何も知らなかった。

 それを、彼女の気まま
[次のページ]
戻る   Point(1)