音楽と精霊たち?/朧月夜
 
思ったわけではない。ただ、残されたこの家が彼女の墓場のように感じられていた。

 東京の音楽大学の講師の仕事を辞めると言った時、もちろん同僚の誰もが反対し、葉子を引き留めようとした。

「今は一人でも仕事がほしいと思っている時なのに……」

「大学の仕事を辞めるなんて勿体ないよ。それに実家に帰るとかって……」

「実家にはもう誰もいないんでしょう?」――という言葉を、その同僚は飲み込んで口にしなかった。もちろん、デリケートな話題だと分かっていたから。それでも、葉子の気持ちに変わりはなかった。

「帰ればまた、一から仕事を探すことになる」――ということを葉子は分かっていた。今まで
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