沈黙と言葉/ワタナbシンゴ
 
の閾値で書いた『望郷と海』は何回読み返しただろう。


石原は、シベリア各地のラーゲリを転々とし、極寒の地での激しい強制労働、栄養失調、同じ囚人からの密告など、人間の肉体と感情の灯を失わざるを得ない状況下を生き抜いた。その壮絶な、生が剥き出しに晒された環境で、何より厳しく自己の精神と魂のありようを見つめ続けた中、累々たる沈黙の上に落とされた言葉たち。そういった体験下で、花であることを宣言することでしか、自らの立つべき拠り所を保つことはできない日常があった。



しずかな肩には
声だけがならぶのではない
声よりも近く
敵がならぶのだ
勇敢な男たちが目指す位置は
その右でも 
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