メモ1/由比良 倖
 
好きだ。僕は宇宙なのに。僕は液体みたいなものなのに。僕は名前を持たない、海の底に咲く、ただ一輪の白い花なのに。僕は存在しないのに。なのに人間たちのいるこの世界で、僕は人間として生きている。
 僕が住めるのは実質、人間の世界だけだ。本来は有り得ないとても小さな場所。人間の世界は、僕が最初からいた場所ではない。僕は人間として生まれたのではなく、自分で人間であることを選び、いまだ人間になろうとしている最中なのだ。

 窓外の空は霞がかっている。煙だろうか? 夕方頃、ときどき空がすごい色に染まる。新鮮なサーモンの色だったり、かと思うと群青だったり。中国の(今日は何かと中国が好きだな)大きな湖をひっく
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