メモ1/由比良 倖
い可能性があると聞いたことがある。トマトジュースが好きで、それは父譲りの嗜好なのかもなのかもしれないけれど、飲みかけのトマトジュースが夜の中にあって、月の見えない日に、スピーカーで静かにエヴァン・コールの音楽を流していると、そしてそれが友人が帰った後の空白だったりすると、グラスに残った真っ赤なトマトジュースを眺めながら、澄んだ炭酸水みたいな感覚が全身の皮膚を粟立てるような瞬間があって、僕は、まるで宇宙の果ての隠し戸にすっぽり嵌まってしまったみたいに、とても小さな気持ちで、泣きたくなってしまう。想像が半分、掠れた現実が半分の気分で。
僕の書く文章には特に趣旨は無くて、ただ咲かせるべき心の中の
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