羊の話1/由比良 倖
間取りの隅々まで思い出したりしている内に、「何て陰気な部屋だろう。あんな部屋では眠れる訳がない」と思いました。
羊さんはその日一日夕方まで羊仕事に従事して、夕食の頃にはぐったり疲れ切っていました。
「空は煤煙に塗れて、絶望の色だ」
羊食堂で皿に盛られた草を食べながら、ふとそんなことを漏らしました。
「ところがそうじゃない」
思いがけず、隣に座っていた職業羊が答えました。羊さんは急に放心が解けたように、あたふたとして、
「えっと、僕は……」
「煤煙なんて昔の話さ。今では街の方が病気が少なくてみんな長生きするって言う」
羊さんは恥ずかしくなりましたが、しかしさっき漏らした言葉を冗談
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