羊の話1/由比良 倖
を食べるんです」
権力羊はしばらく役人的な慇懃さを崩さずにいようと難しい顔をしていましたが、すぐに悲しげに首を振って、
「君、それは法律違反だよ。この草地は羊会社のものなんだ。いずれ、ここの草を刈り取って、街に出荷するだろう。それに、君も本当なら、とっくに働いていなくてはならないんだ」
羊さんは、なるほどなるほど、と言う風に頷いていましたが、実は「とすれば、これが権力というやつなんだな」と本で読んだことをふと思い出して、
「じゃあ、僕は罰金を払うのでしょうか?」
と思いがけず羊さんがいっぱしの市民めいたことを言ったので、権力羊はびっくりして、
「君は知っていたのか?」
と怒ったように
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)