人間ではない。/岡部淳太郎
ぐらいの男を見て、その美しい妻や健康な子供を連れてリムジンに乗ったいかにも幸福そうな様子にこんなことを言う。「確かに羨ましいよ。でもな、あいつ舞台に立てないんだぜ」と(二〇一八年十二月五日〜九日、築地ブディストホールにおいて上演された『スポットライト』より。主演・石橋正次)。これは果たして羨望ゆえの強がりであろうか。いや、決してそうではないだろう。劇団の役者など一般のサラリーマンに比べたら経済的にはずっと下層の部類に属することはよく知られている。確かに生活面での困窮を味わいはするだろう。だが、そうではなく、この台詞には舞台役者としての矜持のようなものがこめられているのだ。普通ではありえないであろう
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