「夏の思い出」の詩人、江間章子/藤原 実
 
〈匂っている〉はどういうことか。なんの匂いもないのにーー」と言うひともいる。花そのものから、鼻がかぐ匂いでなくとも、その情景から凛うものを、〈匂っている〉と表現していいのが、詩の自由なのだ。そして、水芭蕉が最も見事な、五、六月を私は〈夏〉とよぶ。歳時記の影響だと思う。そして、この前の戦争末期、偶然なことから、五人ほどの人たちと尾瀬に入って、いちめんに咲いていた水芭蕉を挑めたのは、その季節だった。  
      (江間章子「水芭蕉のこと」)

確かに俳句では旧暦の4月から6月を「夏」としているため、季語の多くは現在の季節感とはズレがあり、例えば七夕や天の川も俳句では「秋」のものとされていま
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