未完成協奏曲/メープルコート
いた。
ようやく丘の上に辿り着いた男は、立ち止まると大きく深呼吸をした。
そしてその丘の上に聳え立つ屋敷の門を叩く。
若い女中が出てきて二言三言声をかけ、屋敷の中へと通す。
そして二階の老婆に声をかけ、男をその老婆の元へと案内した。
老婆の寂しげな微笑みが印象派の絵画のように男の目に映る。
二人は海を見つめながらヴェランダの籐椅子に腰かけてしばらく黙っていた。
ようやく男がぽつりと話し始めた時、老婆は静かに泣いていた。
時刻は二時を回っていた。
「これを・・・」男は胸元から一通の手紙を取り出し老婆に渡した。
「彼の最後の手紙だよ、姉さん」
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