七夕/凪目
くる
目を閉じて、昨日、夕暮れに歩いた道のりを、なるべくゆっくり思い出す
ぬるく湿気た風が吹いて、肌の上を霧雨がパチパチ舞っていた、炭酸水の中を探検しているみたいだと思った
河川敷では虫が歌っていて、川面はひろく大きく、雲はその感情を博覧会みたく織りなして、層になって、流れてた
僕の細胞はこういうものを取り込むと、なにもかも溶かしてしまう、そして僕はどこにもいないと思う
いつも行きがけに見かけるマンションの庭先に、一本の木があって、そいつは、心臓に巡る血管だけ抜き出したみたいな枝ぶりをしている
小さな種のころから、今日までああやって、緑の臓器で光を吸って吐いて、あそこまでむき出
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