獣臭/山人
 
近くに二〇〇年物のブナが倒れ、川に横たわっていた。そこを渡ろうと思ったが、足元が大きく崩落しブナの大木の幹に降り立つことは不可能だった。しばらくそこら辺を物色し、何とか渡れる場所を見つけ渡渉した。
 ブナ沢を越え、下を向きながら急登を無我夢中で登っていると、突然ドドドドドッと何かの音がしたと同時に私のすぐ左の藪を熊が疾走している。そのまま下に下ってくれよ、と祈るような気持ちでホイッスルを吹くと熊は動きを緩慢にし、再び登山道に出没した。わずか二〇メートル強くらいであっただろうか、熊と視線があった。来るのか?やられるか?しかし熊は、私を一瞥し踵を返した。大きな尻が印象的だった。熊の立ち去るのを息を殺
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