獣臭/山人
 
を殺してじっとしてながめ、姿が見えなくなってはじめて私はふたたび歩き出した。熊の荒い息であったのだろうか、あたりには獣臭が立ち込めていた。たぶん、熊は登山道を下り私を発見。あわてて一旦上ってから藪に突入したのであろう。
 二〇〇六年に猟仲間が至近距離の熊の留めを失中、手負いの熊が猟友めがけて突進し、凄まじい勢いで谷に落ちていったシーンを唯一目撃している。幸い、猟仲間は熊と組み合って沢に落ちた瞬間に熊が素早く離れたために一か月ほどの入院で済んだが、熊の爪で抉られた上腕や、削がれた耳たぶなどを垣間見ると、そうとう運が良かったと思わざるを得ない。タフな熊は大木に登り、断崖から滑落してもゴムまりのように
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