雪国/山人
 
を失ったかのように寡黙だ。
 父に限らず、雪は、冬は、男たちの血液を沸騰させるにふさわしい相手であった。まさに相手に不足はない相手だった。強引に容赦なくすべてを埋め尽くす白魔に対抗するには克雪しかなかった。燃え滾る闘志を、しかし、そのままぶつけるのではなく、畳みかける静けさに対し、心を平易に保ちながら、ひたすら修行僧のように雪を除けてゆく。なにもない退廃的な白さに向かっていると、やがて雪は除雪作業によって取り除かれ、体内に刺さった夥しいとげとげがすべて失われていることに気づく。雪をさらいこむ,除雪機具の音と、吐く息の音、暗い朝と同化しているのは一個の静かに闘う一つの人体。ともしびを消さないように
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