灰燼から這い出る/幽霊
 
かべてた。驚くほどに幸福である。
 夏のエネルギーが忌憚なく僕を打ちつける。今は朝なんだ。出勤する社会人に通学する学生。車輪や足が青信号の許しを得て行き交う。すると突然、車輪!自転車が僕に突っ込んできた。僕は咄嗟に身を翻して躱した。自転車に乗った女学生は何事も無かったように走り去っていった。
 しかしなんということだろう。僕に一瞥もなく去った彼女には愛おしさしかない。今までの僕では考えられない。些かの憤りすら感じない。僕は明らかに彼女の幸福を祈っている。彼女のすべてが素晴らしい。
 古い家屋が建ち並ぶ細い道に入っていた。先程の少女みたいな川が流れている、やはり夏の陽光は川を美しくすると豪信し
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