すすき野原で見た狐/板谷みきょう
 
生い茂ったうっそうの草の群れを、与一が掻き分けたであろう跡を見つけ、それを頼りに駆け抜けていました。

「何も、静かな長い眠りの峰に、こんな私の為に、季節問わずのイチゴを採りに来ることも、ござっしゃろうものを…。」

吐息が白く白く、中空に張り付いてしまうように、狐の想いと共に、まあるく残っては、そっと消えていきました。
与一が、もうすっかりと、万年雪の見える麓に辿り着いた頃には、凍えに慣れていました。
いつの間にか、辺りには、雑草のひとつも生えていない、剥き出しの荒涼とした山岳が続いております。
狐は吹きすさぶ風の中から、与一の匂いだけをかぎ分けながら、荒れ果てた灰色の中を駆けて行
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