詩の日めくり 二〇一六年七月一日─三十一日/田中宏輔
起せしめることが可能であるのは
その偽の記憶が在るがためであろうから
絶対的に必要なものなのである
偽の記憶がなければ
いささかの事実も明らかにされないのであろうから
虚偽がなければ記憶が想起され得ないという
わたしたちのもどかしさ
自分のものであるのに
どこか他人ごとめく
わたしたちの記憶
しかし
そうであるがゆえに
わたしたちは逆に
他者の記憶を
わたしたちのなかに取り込んで
わたしたちの記憶のなかに織り込み
わたしたちの生のよろこびを
わたしたちの事実を
わたしたちの真実を
横溢させることができるのである
偽の記憶
すべての営みが
与え合い
受
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