くりかえしの水/為平 澪
真夜中の台所で 小さく座っている
仄暗い灯りの下で湯を沸かし続けている人
今日は私で 昔は母、だったもの、
秒針の動きが響くその中央で
テーブルに集う家族たちが夢見たものは
何であったのか
遠く離れて何も言えなくなった人たちに
答えを聞くことも出来ず
愚問の正解を ざらついた舌で確かめながら
朝へと噛みしめていく
秒針に切り刻まれながら刻一刻と
日が昇ることを考えていると
とてつもない老いが頭や肩に
霜となって固まり始める
今日あったことを 書いたり話せる相手が
いつかいなくなってしまったとしても
台所に佇んでいるこの静かな重みは
いのちが向かい合
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