ピクニックへの餞/道草次郎
 
物たちのうつくしい動静の中に見てとれる自由を謳歌することに必死で、息を呑むことしか知らなかったのだ。

上り階段の袂にたたずむ知らない若い女性を日がな一日見つめていることもあった。
彼女の、淡い緑がかった瞳がそれまでに見てきたものを見たいと希い、思想の湖のほとりを独り散策することもあった。
そして、ふとした拍子に彼女の足元にミリンダ王の問いを落としてしまい、彼女がそれを拾い上げぼくのことを見つめるや、全てがたちまち霧消してしまう、そんな幻想をさえこよなく愛玩した。

あの日々、ああしたピクニックの日々に於いて、ぼくはぼく無しで成立する世界を想起することが出来たし、その悉くを哀切に想うこ
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