ピクニックへの餞/道草次郎
ら、幸せに、トルストイを味わうことができた。彼の双眸の投げかけるエデンの東と適切な距離を保ち、軽やかに信仰の眼差しを交わすことさえ出来たのだ。
公園の池には鯉や亀がいた。
人が近付くと寄ってきて餌をねだるのだったが、ぼくには、そのことすらも快く感じられた。しかしポケットには物語や詩句、哲学者しか入っていなかったので、彼らを満足させてやることはいつも出来なかった。
だが、そうしたこともそれはそれで満ち足りたものではあった。
ぼくはその時、自分が産まれる前のことも死んだあとのことも、全くと言っていいほど考えていなかったと思う。それらのこと全てはまるで精巧な縮尺模型の様であった。
生き物た
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