ピクニックへの餞/道草次郎
 

こころの箱庭には、いつだって、一町ばかりの夕焼け空があった。
その空にはたくさんの、とてもたくさんの素敵な昔話や、外国の妖精たちが舞い遊んでいて、しばしばぼくを楽しませた。

雨が降っても、それは、全て走り雨だったのだろう。雨傘の先っぽからごぼれるしずくは、その曲線の中に、すでに、陽光を孕んでいたようにみえた。
そして、必ずと言っていいほど近くには東屋があった。東屋に居る筈の恋人たちの姿はなく、ぼくは独り切り株のような椅子に腰を下ろすことができた。
そこでぼくは右脇腹のポケットから大根の皮みたいに薄い『イワンイリッチの死 』を取り出し、雨を受け止めてくれる東屋の屋根を強く意識しながら、
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