ピクニックへの餞/道草次郎
 
のにすら親しみを隠せなかった。
出逢う可能性を秘めた存在全てへの愛の疼きを感じ、美術館の回転扉になったつもりで道行く人々に囀ることさえ可能だった。

ドウダンツツジが犇めく隘路を覚えている。その先には蔓薔薇にうつくしく侵食されたカトリック風の小屋とオレンジ色のベンチがあり、何故かぼくは足繁くそこへ通っていたのだ。
途中、ミニチュアダックスフンドやチワワたちとよく擦れ違った。その時、彼らの嬉しそうな鼻息を聴くことは寧ろ、ぼくの耳の喜びであった。度々、『若きウェルテルの悩み』のロッテの様な神聖な耳で世界の音に耳を澄ませている自分に気付き、赤らんだ頬を秋風に冷やすことも少なく無かった。


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