燃える秋へ捧げるもの/道草次郎
 
として正気にもどる。

 遼くの峰々にこころをなげてみる。すると、びっくりした鉄塔が肩をすくめる。山に陽が射している。山肌の所々に清潔な影の部分ができて、えも言われぬ風情を醸しだしている。最初喜んでいたかに見えた日向も、やがて影のことが気になりはじめたのか影にすり寄りだす。むろん、その慕わし気なそぶりは儚く袖にされる。互いの境界は無限に一定の距離をたもちながらなだらかに尾根をうごいてゆく。


 庭の縁まで来て、しばし目を瞑る。

 まぶたの裏には、銀色をした芒の穂が透明な風にさらさらと波立っていた。
 脳裏のほとりには、千曲川堰堤に果てしなく植えられたソメイヨシノがうつくしく燃え
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