燃える秋へ捧げるもの/道草次郎
 
燃えたっていた。
 胸底の谷には、一羽の鷺が山おろしの風に身じろぎもせず、中州の叢にその嘴を突きたてていた。

 高台が欲しい、と想った。
 山に囲まれた北信濃の盆地を見おろせる高台が。
 眼下にあるそれら一軒一軒の屋根に噛みしめられた物語と、そこに住む人々の生きざまこそ今の自分には必要なのだ。

 足りないのは解っている、それは暮らしと営みに対する眼差しであり、こころなのだ。


 目を開ける。
 しかし、どうすれば良いというのか。茫漠として、この先の道はひろがっている。どこまでも、果てしが無いように。足下の大地から夕焼けがじょじょにしのびよって来るのがわかる。もうそろそろ、夕食のしたくの時間なのだ。

 落ち葉を踏みしめながらぼくは、来た道を、生活のために戻っていく。
 その足どりもまた秋の囁きの一つであると、ただ残照のみがやさしくそう教え諭すかのようであった。

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