燃える秋へ捧げるもの/道草次郎
枝と濡れそぼつ病葉の数枚。仰ぐなり蒼穹が覆いかぶさってくる。点在する実のおよそ半分は烏によりすでにつつかれており、降霜直前に時をさだめ収穫をおこなう人間に残された恵みは、どうやらほんの一縷のものに過ぎなくなりそうだ。
ここ秋に於いて、閑けさはじっさい何処にあるのだろう。森に在るとは思えない。里に有るともまた考えられない。秋は、ただ、さやさやと風とともに哭いている何かの気配の総体のようだ。木の葉の一枚すら、舞って地に落ちるまでに無窮の月齢をようするとさえ想われてくる…どうも心が秋の帳尻を気にし始めてきたのを感じ、しばらくぼんやりと年月の事などを考えてみる。やにわに鳥がバサッと羽搏き、ハッとし
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