燃える秋へ捧げるもの/道草次郎
い。
ブナの大樹は風相手に、動的に、そして時に静的に受け身の練習にいそしんでいる。その様子を立って眺める。この樹の、今現在の色彩を表そうと思えばパレットも絵具も到底安物では足りないだろう。火のようなあのくれないが、まさか、かの涼しげな淡い黄緑色の葉脈をつたい、枝ぶり逞しい秋の上腕を染め上げようとは誰にも想像できまい。炎のようなくれない、臙脂、未だ染まり切らぬ黄緑色、緑葉、そうしたもののバランスがブナという一朶の統一体に脈付いているのだ。
雲一つない青空を老いた手で掴む柿の木。古びた樹皮を剥がすと、その下からやや色うすい幹の脛が顕わになる。地に目を遣れば、そこには散り敷かれた枯れ枝と
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