振り返ること?/道草次郎
その人がソファに崩折れるように沈み込んでいた。床は血糊と人工肛門から溢れ出した汚物とで足の踏み場もない状態だった。自分の職務能力の限界をすぐさま覚ったぼくは事務所に連絡をした。するとものの10分で課長補佐が現れた。課長補佐はベテランのヘルパーで看護師の資格もあるから、ストーマの処置を速やかに行い、ぼくに床を綺麗にするよう指示をした。ぼくは言われるがままにそれをし、時間がきたのでその旨を課長補佐に伝えると帰っていいと言われた。その時見たその人の後ろ姿が、僕が見たその人の最後の姿となった。ぼくはその人にあじフライ一枚すら買ってくる事ができなかったのだ。
こういうことが日常茶飯事のように起きる毎日
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