振り返ること?/道草次郎
 
外されてしまった。しばらくしてその人が亡くなったという話を人づてに聞いた時は、何とも言えない気持ちだった。優しくあるということの無力さは勿論、死期にある人もしくは死んだ人に対する自分の残酷な感情を知った。


それから、こういう人もいた。この人もやっぱり末期ガン患者で、人工肛門をされていた。なぜか部屋中に白いカサカサしたものが大量に落ちていたのが強く印象に残っている。その人の家に行くと、自分はその事ばかりが頻りに気になって仕方なかった。その人は古いポルシェを所有していて、ぼくが訪問する度にそれをとびきり安く譲ってやると言った。ぼくは「そんな高価なものいただけませんよ」とかわしていたけれど、後
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