振り返ること?/道草次郎
しんどい事でもあったのだが、家で引きこもりみたいな生活をしていたぼくにとっては何もかもが勉強だったし、家で考えあぐねている生活の方がよっぽど苦しいものだった。だから、来る日も来る日も多くの事を甘んじて受けた。
とりわけ覚えているのは末期の大腸癌を患っていた利用者の方だ。大変な強面で無口で頑固一徹、昭和の親父みたいな人だった。その人の目の前でヤカンの水をぜんぶひっくり返してしまった事があった。あの時は本当に死ぬかと思った。ヤクザみたいな人だし、末期ガンだし、ぼくの切る千切りキャベツに大いなる不満を抱いていたらしいし、全くチビりそうになったものだ。その件があってから程なくしてぼくは担当を外さ
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