朝と音のための覚え書/道草次郎
た耕運機の頼りなさげな起爆音。凸凹の農道を軽トラックが走り抜けるとき、その荷台でガチャガチャと上下する金属質の何か。勢いよく流れ出た温水が排水口へと吸い込まれていった後に残る生温い余韻。一枚一枚食台に並べられてゆく皿逹のつつましい溜息。オタマが味噌汁のお椀の縁にこつんと当たる時の音。となり合うご飯茶碗とご飯茶碗が何かの加減で軽くふれあって立てる単音。
もう一度500メートル先で警笛音が響くと、近所のオス猫が音もなく道路を横断する。まな板を食器戸棚の脇に立てかける音。それに、ほとんど聴き取れない程の浅い呼吸音が混ざる。りんご畑から遠ざかるスピードスプレーヤーの絶叫。操られる箸は苛立ったように小
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