朝と音のための覚え書/
道草次郎
に小鉢の傍らにその身を投げ出す。とてつもなく巨大な換気扇がどこかで稼働しているような正体不明の低い唸り。
きゅうりの漬物と雑穀米が織りなす咀嚼音のハーモニー。しぶしぶと褥をはい出してゆく両生類めいた粘っこい無音の匍匐。乾いた衣擦れと関節の微かな軋み。挨拶が待ち受ける居間へ向かおうとやっとのことでその魂を引き摺っていく二本脚で歩く疲れた動物。こうしたさなかにあり、それでも絶え間なく風に応えつづけるのは、やはり、風鈴の歌。
戻る
編
削
Point
(3)