朝と音のための覚え書/道草次郎
まず、南部風鈴の音色がある。それから、木のまな板をリズミカルにたたくステンレス製包丁の軽快音。スリッパの薄っぺならビニール底が台所の床の上でぺたぺたと笑う声。朝焼けのなか、小刻みに振動する洗濯乾燥機は重低音のバックグラウンドとして。
唐突に開けられた網戸はアルミの桟を物憂げに切り裂き、ポリバケツの把手は重力に逆らうことなくさりげない鹿おどしとなる。AMラジオからは男性アナウンサーが発するくぐもった国際情勢。湯のなかではインゲンが愉しそうにはしゃぎ回り、それまでずっと控え目だった炊飯器もいよいよ憤怒の蒸気を漏らし始める。
ふいの警笛に虚をつかれる一羽のカラス。いきなりうなり出す錆びれた耕
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