夜に捧げる何か/道草次郎
 
ぼくはそう思った。

何もかも、いやそれは嘘になるから否定するが、ほとんど何もかもにぼくは嫌気がさしていたのだ。
それはもう、自分でも信じられないぐらいに。

一分と経たないうちに苦しさに耐え切れずすごい勢いで息を吐き出すと、その後に襲ってくる荒々しい胸郭の上下に抵抗することなく身を任せている自分がいた。
それから、進みゆく時間はゆっくりとなった。
洗面台の下の小暗がりにしゃがみ込んだぼくは小刻みに震えていた。
ひとしきり泣きじゃくったのだ。
滴り落ちる涙が妻が大事にしているピンク色のマットを濡らしたが、ここでは何もかもよく見えないし、それに別にそんなことはもうどうでも良かった。
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