夜に覚める/道草次郎
 
分の顔がぼんやりと浮かんできた。
ルイボスティーを少しだけ口に含むと遠くで消防自動車のサイレンの音が鳴り始めた。
ルイボスティーの苦味が心地よく舌を潤していく。

ぼくはカップを手にしたままそこで動物のように動かなくなってしまった。
いつもの癖で指を耳の穴の中に入れると奥の方でゴォーという濁流のような唸りが聴こえる。
生理的な関心をしばらくその音に向けるよう、ぼくはなぜか自分に求めることにした。

ふいにキッチンから冷蔵庫の振動音が聴こえる。
遥か遠くではクラクションが鳴っている。
となりの家の庭に植えられた紅葉の樹を揺らす風のざわめきも聴こえる。
増水がすっかり治まった千曲
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