ドジョウの話/道草次郎
のになんだよこの微妙なキャッチアンドリリースは、ぐらいにしか思わなかった気がする。
バケツという極小の溜池から解放されたドジョウたちはたしかに嬉しそうだった。小川の下流へと、それが本来のあり方であるというささやかな主張と共にドジョウは泳いで行ってしまった。
いきなり背後から声をかけられてビクリとして振り向くと、そこにはJAの帽子を被った知らないおじさんが立っていた。
何やらドジョウの事を言っていたようだったが、その時のぼくが覚えているは、そのおじさんが子供のぼくのことを「ねえ、僕」とか「僕、どこからきたんだ」とかやたらぼくのことを「僕」呼ばわりした事だ。
初めて年配の女の人以外から
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