ワタナベさん/道草次郎
、レジ袋に買ったものを詰めるワタナベさんの後ろ姿を眺めるしかなかった。あれ?という感じをぼくの中に残して、ワタナベさんは店を出て行った。
それからは1度もワタナベさんとは会っていない。
あれからというもの、ぼくはなんとか所帯を持ち、それにもかかわらず職を転々としてきた。色々な事があったけれど、ボランティアをやっていた頃の自分とは毎日のように心のなかで話をしている。この間は掴みかかったし、昨日は逆に諭された。
もしかしたらワタナベさんは働いた事がないんじゃないか…こんな疑問を当時のぼくが抱いていた事は否定しない。当時のぼくは、けれどもそれを他の誰かに訊ねてみようとは思わなかった。な
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