冒険/タオル
心しいしい小声で言ってみた。誘うような素振りを消しているつもりだった。
そのひとは初めて会ったときと全く変わらぬふてぶてしく、そして胡乱なひとらしいズレた態度のまま、『ええ。』とだけ言い、立ち上がった。
パソコンの画面を消すことすらせず、否、反応しなかったのだからそのままにするしか方法がないのだろう。
そのひとが座っていた椅子がぎいっと鳴りひびく。廃墟のようなオフィスに。
そのひとは室内なのにサングラスをかけていた、そのことがあまりよろしくない印象を私に与えたのだ。
くだらない。
ふたりは外へ出た。
ビルの前は水をたっぷりかけられ黒々と湿ったアスファルトと、運転手のいない配送車が
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