ぼく/為平 澪
で隠そうとする階級の人にだけは、やさしくされたくなかった。そしてそれを「やさしさ」と認めたくもなかった。
その人は一年を通して二日に一度やってきて、ぼくの服を洗い身体をくすぐり、口の中をきれいにしていく。ぼくはその人にお礼を言いたかったけど、ぼくの口は言葉を沈めることができても発することはできない。ぼくが存在できるのは、ぼくが人の捌け口として役に立ち、利用できるから、それだけだ。ぼくがいなくなってもそこに更地が出来るだけで、また置かれる新機能付きのぼく。全ての人にはそういう話なんだよ。何度も自分に言い聞かせながら、やってくるその人の優しい手と真心のようなものを感じて、夜になると泣いた。
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