ぼく/為平 澪
来だったのかもしれない。
── その人が来るまでは…。
その人はぼくの服を丁寧に手洗いして、ぼくの臭い口を濯いでくれた。白い服を着たその人は、とてもいい香りがした。ぼくとは遠い所にいる人だとすぐに分かった。その人は一日置きにぼくの体を洗ってくれる。やめてほしい、と思った。くすぐったい、と思った。そして、うれしかった。そんな喜びがこみあげてくる自分が惨めでしかたなかった。
── 期待させないでほしい。ぼくの所には汚いものが似合うのに。それを吐きにくる人のために作られたのに。君のように場違いで、ぼくより年下の、いつか世の中を知ってしまえば、ぼくがどういうモノであるかについて、一番先に土で隠
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