秋霧の朝に/帆場蔵人
見えてなぁ……」
虎じいの話の間、僕らは雲の中を歩き続けた。誰かとすれ違ったようにも思ったけれど、よく覚えていない。霧への漠然とした不安を忘れて富士山の頭上を飛行機で飛び越え雲の海を見降ろしたらでっかいナマズが雲の中から顔を出した、という虎じいの話に夢中になり笑っていた。やがてグラウンドが霧の中でも見えて来ると、虎じいはもう一人でもいけるやろ、と僕の背中を押した。別れぎわに、秋の朝に霧が出たら昼にはよう晴れるんやで、と虎じいは笑いながら土手に降りていったのだった。朝練の後、学校の授業が始まる頃には霧とともに雲も去り、晴天には青がいっぱいだった。虎じい、とあったのはそれが最後だった。サッカーや
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