秋霧の朝に/帆場蔵人
 
ーや柔道に夢中になるうちに僕の生活から虎じいは遠ざかり、一年ほどして虎じいの自宅前を通ると表札がなく家の雨戸は閉められていた。

霧の町をぬけて自宅に辿り着く。夜勤で疲れた身体をソファに埋めて、カーテンを閉め切った部屋で眠った。遠い国まで流れていく雲の中、でっかいナマズが泳いでいく。その背には虎じいが杖を振り上げ笑いながら乗っている、夢など見ることはなかった。数時間後、目を覚ました僕は水を飲み渇きを癒して、カーテンをさっ、と開けた。秋の朝に霧が出たら昼にはよう晴れるから。当たり前のように秋のひかりが射しこみ、僕と部屋を濡らしていった。
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