秋霧の朝に/帆場蔵人
 
い顔に笑みを浮かべてほれ、飴や、と懐から差し出してきた。僕がなかなか、受け取ろうとしないのをみると、オヤジさんには内緒やで、と一層、顔の皺を深くして笑うのだ。

虎じいとの出会いについて書いておこう。当時、小学校で敬老の日に市内のお年寄りに向けて手紙を書いて送る、という行事があった。特定の人物にではなく誰に届くかわからないお手紙、だった。僕はやっつけ仕事で長生きしてください、とかなんとか書いたのだ。数日後、返信が届いた。とても嬉しかった、もう少し生きて見ようと思います、と子どもにもわかる丁寧な文面でお礼が綴られていた。良ければ遊びに来てください、とも書かれていた。僕は折を見て虎じいの家に遊びに
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